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高松高等裁判所 昭和52年(う)49号 判決

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役三月に処する。

この裁判確定の日から一年間右刑の執行を猶予する。

理由

〈前略〉

第一控訴趣意第一(弁護士法七二条、七七条の解釈適用の誤りの論旨)について

本件は、司法書士たる被告人にかかる弁護士法七二条違反の事案である。司法書士は、弁護士業務の一部を業務としているので、司法書士が法令に従い執行した業務は弁護士法七二条に該当しても、正当な業務による行為として適法であることはいうまでもないが、もし業務の範囲を逸脱した行為が同条の要件を充せば、司法書士といえども処罰を免れることはできない。本件の争点は、被告人の行為が業務の範囲を逸脱したかどうかにある。

一弁護士法七二条は、その本文において「弁護士でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、異議申立て、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。」と規定している。そして右規定にいわゆる「その他一般の法律事件」とは同条例示事件以外の権利義務に関し争があり、若しくは疑義があり又は新たな権利義務関係を発生する案件を指すものと解すべく、原判決もこの点に関し見解を一にする。つぎに右規定にいわゆる「その他の法律事務を取り扱う」とは同条例示の事務以外の法律効果を発生、変更する事項の処理を指すものと解すべきである(東京高裁昭和三九年九月二九日判決、高裁刑集一七巻六号五九七頁)。右の法律事務は、同条に定めるとおり訴訟事件等同条列記の事件の外前示の一般の法律事件に関して取り扱われることを要するから、これらの事件に該当しない、争訟性のない事柄に関する場合が除外されることは当然である。

訴訟関係事務の処理は、伝統的に主要な弁護士業務であり、訴訟関係書類特に訴状等の作成がすぐれて法律専門的な弁護士業務に属する事務であるとは明らかであつて、右の「法律事務の取り扱い」に当ることは多言を要しない。原判決のように、弁護士法七二条の右文言をあたかも主体が司法書士であるかどうかによつて別異に解釈しようとする如き必要性は認められず、このように限定的に解するのは相当でない。

また、同条の制定趣旨は、最高裁昭和四六年七月一四日大法廷判決(刑集二五巻五号六九〇頁)が示すとおりであつて、原判決も引用するように、「弁護士は、基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命とし、ひろく法律事務を行うことをその職務とするものであつて、そのために弁護士法には厳格な資格要件が設けられ、かつ、その職務の誠実適正な遂行のため必要な規律に服すべきものとされるなど、諸般の措置が講ぜられているのであるが、世上には、このような資格もなく、なんらの規律にも服しない者が、みずからの利益のため、みだりに他人の法律事件に介入することを業とするような例もないではなく、これを放置するときは、当事者その他の関係人らの利益をそこね、法律生活の公正かつ円滑ないとなみを妨げ、ひいては法律秩序を害することになるので、同条は、かかる行為を禁圧するために設けられたものと考えられるのである。」

このような同条制定の趣旨からすれば、弁護士法所定の登録を経た弁護士でない者が、報酬を得る目的で業としてする限り、それが紛争解決に直接結び付く事項であるかどうかや、態様のいかんにかかわらず、鑑定、代理、仲裁、和解はもとより、その外にも法律上の効果を発生変更する事項を処理することを禁止するものと解するのが相当である。原判決が、同条に例示している鑑定、代理、仲裁、和解等の意義に照らし自己の意志決定によつて法律事件に参与し、鑑定、代理、仲裁、和解等の手段方法をもつて自己の判断で事件の解決を図ろうとすることであるとし、訴訟関係書類の起案作成だけでは紛争の解決に当らず、問題解決自体は裁判所の判断という後日に残された問題であるとする点は、弁護士とても権限はともかく、全く自由に自己の判断に基いて事件の処理をしているのではなく、依頼者の意向に従つていること、裁判所に判断を求める限り問題の解決を図るものは裁判所であつて、当事者や代理人ではないから、原判決の見解によると、裁判所の判断を求めるため書類を作成する限り司法書士はその過程においていかなる事もなし得るというに等しいことになつて、不当であるばかりでなく、弁護士との差異は唯訴訟委任状の存否にとどまるものとなる奇現象を呈することとなる。弁護士法七二条の右文言につき、自己の意志決定とか自己の判断とかそれ自体必ずしも明確に区別することのできない基準を設定すべき合理的な理由も認められず、これを紛争解決に直接結びつく事項に限る理由もない。

二司法書士は、他人の嘱託を受けて、その者が裁判所、検察庁に提出する書類を作成することを業としている(司法書士法二条一項二号。なお、司法書士は同項一号三号の業務も行うが、本件では関係がないので触れない。司法書士法は昭和五三年法律第八二号によつて改正されているが、本件で述べることは法改正の前後により変らないと考えるので、条文の引用は新法による)。

司法書士の業務である右の訴訟関係書類の作成は、前述のとおり、弁護士の主要業務の一部と全く同一であることからして、右書類作成については相当な法律知識を必要とすることは司法書士法一条の二の規定をまつまでもなく明らかであり、また国が司法書士法を制定して一定の資格を有する者のみを司法書士としてその書類作成業務を独占的に行わせ、他の者にその業務の取扱を禁止している趣旨からして、司法書士が他人から嘱託を受けた場合に、唯単にその口述に従つて機械的に書類作成に当るのではなく、嘱託人から真意を聴取しこれに法律的判断を加えて嘱託人の所期の目的が十分叶えられるように法律的に整理すべきことは当然であり、職責でもある。

けれども、弁護士の業務は訴訟事件に関する行為その他一般の法律事務の取り扱いにわたる広範なものであるのに対し、司法書士の業務は書類作成に限定されていること、弁護士は通常包括的に事件の処理を委任されるのに対し、司法書士は書類作成の委任であること、前述のように訴訟関係書類の作成が弁護士業務の主要部分を占めているのに対し、司法書士の業務は沿革的に見れば定型的書類の作成にあつたこと、以上の相違点は弁護士法と司法書士法の規定のちがい特に両者の資格要件の差に基くこと、並びに弁護士法七二条の制定趣旨が前述のとおりであること等から考察すれば、制度として司法書士に対し弁護士のような専門的法律知識を期待しているのではなく、国民一般として持つべき法律知識が要求されていると解され、従つて上記の司法書士が行う法律的判断作用は、嘱託人の嘱託の趣旨内容を正確に法律的に表現し司法(訴訟)の運営に支障を来たさないという限度で、換言すれば法律常識的な知識に基く整序的な事項に限つて行われるべきもので、それ以上専門的な鑑定に属すべき事務に及んだり、代理その他の方法で他人間の法律関係に立ち入る如きは司法書士の業務範囲を越えたものといわなければならない。なお弁護人指摘の大審院昭和二〇年一二月二二日判決、東京高裁昭和四七年一二月二一日判決は、いずれも司法書士が嘱託人の代理権の存在を調査すべき義務を認めたものであつて、前記説示と合いこそすれ何ら反しない。

また、原判決が弁護士の数が少い僻地では司法書士が一般大衆のために法律問題についての市井の法律家として役割を荷つていることから、司法書士の業務範囲を拡張して是認するかの如き論旨は、立法論として検討に値するものがあるとはいえ、これを現行法の解釈として採用し司法書士に広範な権限が委ねられているとすることはできず、また弁護士と司法書士はともに法律生活における分業関係に立つことは明白であるが、その範囲は司法制度の構成全般から承認されるべきことも当然である。

司法書士が、他人の嘱託を受けた場合に、「訴を提起すべきか、併せて証拠の申出をすべきか、仮差押、仮処分等の保全の措置に出るべきか、執行異議で対処すべきか」などまで判断するとともに、「資料の収集、帳簿の検討、関係者の面接調査、訴訟維持の指導」をもなすことが、司法書士の業務ないしこれに付随する業務であるかどうかは、その行為の実質を把握して決すべきである。例えば訴状を作成する段階でも証拠の存在内容を念頭に置く必要があるし、前示の一般的な法律常識の範囲内で助言指導をすることは何ら差支えない。これを一率に基準を立てて区分けすることは困難であつて、結局はその行為が嘱託に基く事務処理全体から見て個別的な書類作成行為に収束されるものであるか、これを越えて事件の包括的処理に向けられ事件内容についての鑑定に属する如き法律判断を加え、他人間の法律関係に立ち入るものであるかによつて決せられると解すべきである。

三司法書士の業務は、前述のように、弁護士業務の一部であり弁護士法七二条にいう訴訟事件その他一般の法律事件に関し法律事務を取り扱つたことに該当し、しかも報酬目的で業としてなされることも明白であるが、もちろん法律が特に弁護士以外の者にその業務の一部を行うことを認めたものであつて、いわゆる正当な業務行為として適法であることはいうまでもない。しかし、法令の定めに従わない業務執行が違法性を阻却し得ないこともいうまでもなく、司法書士は司法書士法で定められた限度で業務として他人間の事件、権利義務関係に関与するのであるから(それ故に、法一〇条は特に司法書士は、その業務の範囲を越えて他人間の訴訟その他の事件に関与してはならないと規定し、その違反を懲戒の事由とし刑罰を科することとする。)、業務範囲を逸脱した行為が弁護士法七二条の構成要件を充足するときは(それは必ずしも司法書士法一〇条の規制範囲と一致しない。)、もはや正当な業務として違法性が阻却される理由はなくなり、司法書士本来の業務である書類作成行為も、業務範囲を逸脱した行為の一環としてなされたときは、全体として違法評価を受けることを免れないと解すべきである。なおこの場合、右の業務範囲を逸脱した行為自体について、同条所定の反覆業務性及び報酬目的が具わつていることを要すると解すべきである。

第二控訴趣意第二(事実誤認の論旨)について

そこで、被告人のなした行為が具体的にいかなるものであつたかについて見ていくこととする。

一原審で取調べた被告人の捜査官に対する各供述調書によれば、被告人は同志社大学法学部を卒業し、大学に助手として残るように勧められたがこれを断り、数か所勤めたのち、元来法律が好きなため、法律を研究しながらできる仕事として昭和二七年司法書士となつて愛媛県司法書士会に属し、同県新居浜市内に事務所をもつたが、司法書士となつて一、二年経つたころから本来の業務である登記事務などは困難なもののほかは知り合いの同業者に委ね、主として訴訟関係の事務を扱うようになり、一人前に訴訟事件をこなして行きたいとの考えから熱心に研究し、頼まれればわが事のようにあらゆる手段方法で争い、徹底して結末をつけないと気が済まない性格のため、愛媛県下はもとより香川県からも被告人を頼つて法律事件の解決を求めて来るようになつたこと、被告人は事務所に所定の報酬額を掲示せず事件簿の調整も怠つていたことが認められる。

二公訴事実第二について

後掲証拠の標目中関係証拠によれば、次の事実を認めることができる。被告人は、昭和四八年一〇月ころ、交通事故の関係者を連れて西条市の津島弁護士事務所へ行つた際、西原義男が同弁護士を訪ねて来て、会社乗取り事件の話をしているのに口を挾んだことから、同人が数回被告人方を訪ねて来て同人が前記津島弁護士により追行中の訴訟の関係書類を見せて説明し、これについての被告人の意見、法律解釈、今後の対策を尋ね、被告人の意見に賛同した同人の依頼により、被告人は津島弁護士に自分の意見を具申したが、同弁護士の取上げるところとならなかった。しかし西原は被告人の意見を尊重し、その意見をわが意見として津島弁護士に伝えていた。そのころ、西原の宅地を同人が乗取られたとするオークラ製紙株式会社が通行していることにつき、被告人は同人に対し別に通行権問題でやつてみるように言い、同人はこれに従い同会社に対し、自分の敷地を通るのであれば使用料を支払うべき旨の内容証明郵便を出したところ、伊予三島簡易裁判所から同会社申請にかかる通行妨害禁止の仮処分があり、被告人の指示により起訴命令を申立てて同年中に本訴が提起されるに至つたが、被告人は西原から右訴訟の指導方を依頼されてこれを了し、同人方へ赴いて実地を見分するとともに写真を撮影し、主張及び証言の要点を教えるなど同人と緊密な連絡を取り、法廷にはもとより同人が出頭するが被告人の指示通りに進めることとなり、被告人は答弁並に抗弁書(昭和四九年一月一八日付)、準備書面(同年三月九日付)、上申書(同年六月二日付)を作成し、さらに一審判決の不服点を教え、控訴状(同年九月付及び一〇月一日付)、準備書面(昭和五〇年一月一二日付、一〇月二〇日付)、通行料請求調停申立書(同年四月一〇日付)を起案作成して同人に手渡しまたは自ら裁判所に郵送し、西原から謝礼として昭和四九年一月、二月、九月ころの三回に分け合計金三五万円を受領した。なお、昭和五一年一月に上告状を作成したが期限を徒過して上告しないで終つた。

右事実によれば、被告人は通行権確認訴訟の被告である西原義男のため司法書士の業務範囲を越えて自己の法律知識に基き右事件の内容について判断を下し、これを訴訟関係書類に作成して訴訟維持の指導等をしたものと認められる。

三公訴事実第四について

後掲証拠の標目中関係証拠によれば、次の事実を認めることができる。被告人は昭和四七年一一月ころ、麻電化企業組合の役員高岡貞好の来訪を受け、組合長の矢野岩雄が裏帳簿を作つて組合の金七〜八〇〇万円を横領しているように思うが、帳簿のことはわからぬ故一度調べて、どの位使込みがあるかを算出して欲しい。組合長のことだから責任さえ取つて弁償するなら話し合いで済ませたいからよろしく頼むと依頼されてこれを引受け、組合帳簿を持参させ、記帳した女子事務員から説明を求めて使い込みの事実を逐一確め、香川県三豊郡高瀬町所在の右組合にも調査に赴き、居合せた矢野岩雄本人とも直接面接したが、その際組合に弁償したらどうかという位の話は出たけれども、交渉という程のことはなかつた。その後、被告人は高岡の相談に乗つて麻電化企業組合代表理事高岡貞好名義の告訴状を作成し、同人が高瀬警察署に告訴するとともに、被告人も同署に赴いて事情を具申し、これが不起訴となつたため、同人から民事訴訟の提起方を依頼されてこれを引受け、請求金額六三七万余円とする訴状(昭和五〇年二月八日付、ただし昭和四八年二月の作成日付が上記のとおり訂正されている)、証拠申立書(昭和五〇年五月付)を起案作成して高松地方裁判所観音寺支部へ郵送し、高岡からは逐一報告を受けて対処の仕方を教示し、裁判所から弁護士を入れないのかと言われたという同人に対し、まだ早い、わしが言うとおりにすれば済む、必要となつたら松山の梶原弁護士に頼んでやると答えた。同人から謝礼として昭和四七年一一月から五〇年三月までの間に七回位に分けて合計金五四万七、〇〇〇円を受領した。

右事実によれば、被告人は高岡貞好の依頼を受け司法書士としての業務範囲を逸脱して矢野岩雄の使込み事件の処理を引受け、自己の法律知識に基き事件の内容を判断し、これを訴訟関係書類に作成し訴訟維持の指導等を行つたものと認められる。

四公訴事実第六について

後掲証拠の標目中関係証拠によれば、次の事実を認めることができる。被告人は昭和五〇年九月ころ、森本貞雄が、同人の妻嘉寿美が昭和四八年四月四日に単車を運転中大新建設こと近江新一のトラック(運転者坂上勝昌)と衝突して重傷を負つた交通事故に関し、保険会社から二八〇万円しか支給されないことに満足できず、伊藤和四郎の紹介で被告人に依頼して来た際、これだけひどい怪我をしているのに二八〇万円ということはない。こんなことで判をついたらいかん。保険会社にある書類を貰つて来てまず大新の方へ請求すれば大新が保険会社に請求することになるからその手順でやつてあげる。大新の方にかけ合うのはわしにまかせと言い、早速伊藤和四郎を通じて報酬等として金四〇万円を受領した。印鑑証明や委任状も得たが、訴訟をしないと解決の目処がなかつたため二、三度事故現場に赴いて森本貞雄から説明を聞き、道路状況や衝突の部位、態様を勘案して過失の有無、割合を判定し、さらに養鶏を営んでいた被害者の逸失利益を多数の資料と算式により算出する等して請求額を八五二万余円とする訴状(昭和五一年四月三日付)を作成して松山地方裁判所西条支部に提出し、なお被害者には後遺症があつて出廷できないため弁護士に話してやると言い、また準備ができていないから延ばせと言つて期日変更申請方を指導した。

右事実によれば、被告人は森本貞雄から交通事故による損害賠償事件の依頼を受けてこれを引き受け司法書士の業務を逸脱して、自己の法律知識に基き損害額等につき判断し、これを訴状に作成提出したものと認められる。

五公訴事実第七について

関係証拠によれば、金本忠雄は同人の妻の姪に当る山村紀子との婚約を市川民夫が破棄したことについて、慰謝料一五〇万円位を要求して同人と交渉していたが解決に至らなかつたため、裁判にするほかないと考え、昭和五〇年九月二〇日ころ十数年来司法書士として交際があり相談相手としている被告人を訪ねた。被告人は両者間の交際の程度が内縁にまで達しているかどうか、山村紀子の結婚準備の程度、今後の生活見通しなどを同女について調査し、判例等に当つて慰藉料額を算定し、同女の言い分を認めた内容証明郵便を作成し、右金本においてこれを郵送したが、相手からも内容証明郵便による返事があり、金本としては訴訟を起す決意をして訴状の作成方を依頼し、被告人はこれに応じて訴状を作成して金本に交付し松山地方裁判所西条支部に提出した。その後市川側の答弁書を持参して来た右金本に対し、訴状に書いてあることが間違いないと言えばよいし証人を調べるのであれば相談に来いと言い、同人から報酬として昭和五〇年九月と一〇月に二回に分け合計金一〇万円を受取つた事実を認めることができる。

右によると、被告人は永年つき合いのある金本忠雄の嘱託により若干事実調査や判例を調べて訴状を作成したにとどまり、また金本に教示した点も一般的な法律常識的な事項にとどまるものと考えられるから、これらは司法書士業務の範囲内にあるものと認められる。

六そして後記証拠の標目に掲げる証拠及び原判決挙示の証拠によれば、被告人は前示の各業務範囲逸脱行為につき報酬を得る目的があり、かつ業として行つたものと認めることができる。なお、弁護人の所論に鑑み、原判示有罪部分についても前記説示に従い検討したが、いずれも原判決の認定を肯認することができ、誤りがあるとは認められない。

第三以上の理由により、公訴事実第七については弁護士法七二条に違反しないが、同第二、第四、第六については同条に違反し同法七七条に該当するものであるのに、原判決がこれらの事実につき司法書士業務に属し右法条に違反しないとしたのは、法令の解釈を誤り事実を誤認したものであつて、これが判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、原判決はこの点において破棄を免れない。論旨は右の限度において理由がある。

よつて、刑訴法三九七条一項、三八〇条、三八二条により原判決を破棄し、同法四〇〇条但書により、当裁判所において直ちに判決する。

(罪となるべき事実)

当裁判所が認定する罪となるべき事実は、原判決が罪となるべき事実として認定する事実の外これに付加し、四以下として、次のとおりである。

被告人は、司法書士であつて弁護士ではなく、かつ法定の除外事由もないのに、報酬を得る目的をもつて、昭和四七年一一月ころから昭和五一年四月ころまでの間、業として

四 昭和四八年一二月ころ愛媛県新居浜市高木町三番二四号の自宅において、西原義男から、同人がオークラ製紙株式会社から通行権の確認を求める民事訴訟を伊予三島簡易裁判所に提起され、その指導等を依頼されて引受け、そのころから右事件が終結に至る昭和五一年一月ころまでの間、通行権に関する法律知識に基き右事件を判断し、これに従つて答弁並に抗弁書、準備書面、上申書を作成し、さらに一審判決に対する不服点を教えて控訴状、準備書面、通行料請求調停申立書等を起案作成して訴訟維持の指導等をし

五 昭和四七年一一月ころ、右被告人自宅において高岡貞好から、同人の所属する麻電化企業組合代表理事の矢野岩雄が同組合の資金数百万円を不正使用している疑があるとして、その事実調査と解決を依頼されてこれを引受け、そのころから昭和五〇年五月ころまでの間に右組合の帳簿を検討し、関係者に面接して損害額を算定するなど右事件の内容を判断し、これに従つてまず告訴状を起案作成し、のち右使込みによる損害賠償請求訴訟の訴状を作成提出して訴訟維持の指導等をし

六  昭和五一年四月ころ、右被告人自宅において森本貞雄から、同人の妻森本嘉寿美が交通事故により受傷したことを原因とし近江新一ほか一名を相手として損害賠償請求の民事訴訟の提起と訴訟維持の指導方を依頼されてこれを引受け、かねて右貞雄の依頼により右事件につき過失の有無、割合、請求金額の調査をして法律知識に基き右事件の内容を判断した結果に従つて訴状を作成提出するなどし

もつてそれぞれ法律事務を取り扱つたものである。

(証拠の標目)〈省略〉

(法令の適用)

被告人の判示各所為(罪となるべき事実一ないし六)は包括して弁護士法七七条、七二条に該当するので、所定刑中懲役刑を選択し、その刑期の範囲内で被告人を懲役三月に処し、情状により刑法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から一年間その刑の執行を猶予し、訴訟費用(当審)は刑訴法一八一条一項但書によりこれを被告人に負担させないこととする。(なお、無罪部分は有罪部分とともに包括一罪の一部をなすものであるから、主文において無罪の言渡をしない。)

よつて、主文のとおり判決する。

(桑田連平 川上美明 緒賀恒雄)

別紙

公訴事実

被告人は、弁護士でなく、かつ法定の除外事由もないのに報酬を得る目的をもつて、業として

第一 昭和四八年五月二〇日ころ、新居浜市高木町三番二四号の自宅において、河端俊春から、同人が高橋浦助に盆栽を横領された件の交渉解決方を依頼されてこれを引受け、右高橋と交渉の結果同月二六日ころ、右自宅において、右横領による弁償金額、その支払方法、担保設定などを取り決めたほか、右契約に基く分割支払金として、右高橋から同月二七日現金二〇万円、同年七月七日現金五万円を受領するなどの法律事務を取り扱つた。

第二 昭和四八年一〇月末ころ、右被告人自宅において、西原義男がオークラ製紙株式会社から通行権の確認を求める民事訴訟を三島簡易裁判所に提起され、右通行権の存否を争つて応訴するにつき、その指導等を依頼されて引受け、そのころから右事件終結に至る同五一年一月ころまでの間、通行権に関する法律知識に基づき、反証、資料の蒐集及び訴訟関係書類の起案作成と訴訟維持の指導等をして法律事務を取り扱つた。

第三 昭和四九年三月初旬ころ、右被告人自宅において、株式会社サンテックス代表取締役の田窪正義から、同会社が三億余円の負債を生じて経営危機に直面し、金融機関に抵当権等を設定している右会社工場機械等の担保物件が競売されるおそれがあつたので、その延期方策を懇請されてこれを引受け、そのころから約数か月にわたり、右担保外物件に対する動産質権の設定、担保物件に対する質権の設定、営業権の譲渡、競売に対する異議の申立などを指導実行したほか、公正証書作成における代理人となるなどして法律事務を取り扱つた。

第四 昭和四七年一一月ころ、右被告人自宅において、高岡貞好から同人の所属する麻電化企業協同組合代表理事の矢野岩雄が、同組合の資金数百万円を不正使用している疑いがあるので、その事実調査と解決を依頼されてこれを引受け、そのころから同五〇年五月ころまでの間に、右組合の帳簿の検討、関係者の面接調査、矢野岩雄との交渉、告訴状の起案作成、右横領による損害賠償金請求の民事訴訟の提起と訴訟維持の指導等の法律事務を取り扱つた。

第五 昭和五〇年二月四日ころ、右被告人自宅において、藤井アヤ子から同女が千数百万円の債権債務の処理に困惑し、その取立支払等の整理を依頼されてこれを引受け、同月一七日ころ、右自宅において、野村一三に対し、右藤井の所持する野村伊勢治振出の金額二〇〇万円の約束手形金を請求したが、同女から偽造手形などの抗弁を受けたため、同女を説得して内金として五〇万円を受領したほか、残金は後日支払を受けることとする約束をして覚書を作成したほか、同年八月一五日ころ、同所において、月岡恵美子に対し、右藤井の所持する月岡聡振出の金額各一〇〇万円の約束手形計五通の手形金を請求し、同女から偽造手形であるとの抗弁を受けて説得し、一〇〇万円の支払を受けたが、交渉により残金の支払も受けることとする覚書を作成する等の法律事務を取り扱つた。

第六 昭和五一年四月ころ、右被告人方において、森本貞雄から、同人の妻森本嘉寿美がかねて交通事故により受傷したことを原因とし、近江新一ほか一名を相手として損害賠償金請求の民事訴訟の提起と訴訟維持の指導方を依頼されてこれを引受け、そのころから過失の有無、程度、請求金額の算定などにつき事実調査をしたうえ訴状を起案、作成して森本嘉寿美名義をもつて松山地方裁判所西条支部に提訴するなどの法律事務を取り扱つた。

第七 昭和五〇年九月下旬ころ、右被告人自宅において、金本忠雄から山村紀子と市川民夫間の婚約が破棄されたことにつき右山村及び右金本のため慰謝料請求の民事訴訟の提起と訴訟処理を依頼され、そのころ山村、市川間の交際の状況等の事情を聴取して慰藉料請求額を算出し、訴状を起案作成したうえ、右金本ら名義をもつて松山地方裁判所西条支部に対し訴状を提起し、右金本に対し訴訟の維持などの指導をして法律事務を取り扱つた

ものである。

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